日銀の金融政策が長期金利を1.3%程度押し上げ

米国の7月雇用統計は、雇用者数が前月比-2.3万人と、5カ月ぶりのマイナスとなった。5月、6月分も合わせて10.3万人下方修正され、過去3カ月間の雇用者数の伸びは+2万人にとどまった。企業の雇用需要が引き続き低調であることを示している。雇用需要の鈍化は求人統計とも整合的であり、賃金にも引き続き抑制圧力がかかることを示唆している。コストプッシュ要因の強いインフレが続く中、直近4-6月期の個人所得の伸びからPCEデフレーターの伸びを差し引いた実質所得の伸びは前年比-0.3%と、インフレが高進した2022年以来のマイナスである。概ね連動する消費の伸びも、大規模な財政サポートがない限り、緩やかな伸びにとどまる可能性が高い。住宅価格の伸びも、高金利環境の長期化を背景に、インフレ率をも下回る低い伸びが続いており、保有資産に占める住宅の割合が高い中間層以下では、大きな資産効果も見込みにくい。雇用需要が弱い一方、失業率は4.1%と、前月の4.2%から低下した。2025年11月の4.5%から、低下基調が続いているが、要因は職探しを行わない非労働力人口の増加(労働参加率低下)による、労働供給の減少にある。労働参加率は、特に55歳以上の年齢層の低下が顕著であり、高齢層の労働市場からの退出が失業率低下に影響している可能性が高い。労働供給の減少は、足元の景気サイクルよりも、中長期的には潜在成長率の押し下げ要因として一般的には捉えられる。FRBの金融政策にとっては、様子見姿勢を続けるための材料が増えたことになる。失業率が低下したとはいえ、その背景には労働供給の減少という供給要因が強く、雇用者数がマイナスとなるほど雇用需要が鈍いことを踏まえれば、インフレ圧力の高まりを理由に利上げを急ぐ必要性は乏しい。インフレ指標については、9月30日に予定されているPCEデフレーターの一部サービス品目の価格算出方法の刷新により、公表値が下方改定される可能性が指摘されている。ウォーシュ議長は、強い経済成長率が示されても、設備投資の増加が続いているのであれば、それが将来のイノベーションや生産性向上を通じてディスインフレ圧力として働くとの見方を重視している。そして、設備投資や技術革新の進展は、必ずしも足元の経済指標だけで捉えられるものではないとも指摘している。企業経営者の声や、身の回りで実感する利便性の向上といったアネクドータルで定性的な情報が、経済指標などのハードデータに先行する傾向があるとも、過去に述べている。1990年代のIT革命時にも、当時のグリーンスパンFRB議長がこうした定性面を重視していたというのが、ウォーシュ議長の見解であり、金融引き締めを急ぐことには慎重姿勢だとみるべき要因の一つである。

日銀の金融政策が長期金利を1.3%程度押し上げ

n   長期金利(国債10年金利)のマクロ・フェアバリューは、名目GDP(前年比、12QMA)、企業貯蓄率と財政収支を合わせたネットの資金需要(対GDP比%、マイナスが強い)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国債10年金利、緩和的金融政策のコミットメントの強さを表すダミー変数(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0とする、プラスは緩和に前のめり)で推計できる。

n   日銀の金融政策は、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートのうち、「強い経済成長」を軽視した「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」となっている。安定的に名目GDPが3%程度の成長を続け、ネットの資金需要が0%程度まで強まることを前提に置きつつ、金融政策スタンスの変化を表すダミー変数を、2026年4-6月期からマイナス0.25(マイナスは引き締めに前のめり)とすると、現状の長期金利水準が概ね説明可能である。

n   マイナス金利を解除する前の2023年10-12月期から、国債10年金利は200bp程度上昇しているが、フェアバリューの推計式を用いて、足元までの金利上昇の要因を分解すると、市場の中立金利に対する目線が引き上がりつつ、日銀が利上げに前のめりな「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」となったことが、10年金利を75bp程度押し上げたことが示唆される。このうち、中立的な金融政策スタンスといえる、ダミー変数0から、「アヘッド・オブ・ザ・カーブ」であるマイナス0.25による押し上げ効果は、15bp程度である。また、2027年4月からの毎月2兆円程度までの国債買い入れ減額を市場が織り込んだことを踏まえると、マイナス金利解除前の時点から、長期金利を60bp程度押し上げたことが示される。合計すると、市場の中立金利見通しの上昇と日銀による金融政策要因が、マイナス金利解除以降に国債10年金利を130bp程度押し上げたといえる。残りの上昇要因は経済成長期待や海外金利の上昇の影響が強く、長期金利の上昇は、財政不安などリスクプレミアムの上昇による寄与ではなく、日銀の金融政策要因が極めて大きいことが分かる。

国債10年金利(%)=0.48+0.30 名目GDP(%、前年比、12QMA)+0.26 米国10年金利(%)-0.15 ネットの資金需要(対GDP比%)-0.06 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.61 緩和的金融政策ダミー(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0) ;R2=0.93

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